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◎きじひき高原の大きなブナの木・なぞに答える



  小さな発想 2004/2/27 で大野町少年の主張大会での大澤千晶さんの「百年後の豊かな森づくり」の発表を載せました。この中での疑問について、樹木医・斎藤晶さん(元道立林業試験場道南支場長/日本樹木医会北海道支部長/日本樹木医会理事)が、解答をよせてくださいました。

  きじひき高原の大きなブナの木について

  きじひき高原に点在する大きなブナの樹齢は、約250年と推定されます。このブナの大木は、約250年前に何千粒という落下種子の中から発芽した一本が、苛酷な気象環境に耐え抜いて育ってきたのです。

従って、きじひき高原の大きく育ったブナの木の種子は、諸害に対する抵抗性や優れた森づくりが期待できる、遺伝的な性質を潜在しているものと考えられております。

きじひき高原に、将来立派なブナの森づくりを進めるためには、その場所の種子を採取して苗木を育て・植える必要があります。

  植えたブナの木の種子が発芽しなかったことについて

@ ブナの種子の発芽傾向

  ブナの種子には 「不稔性」 という特性があります。この不稔性とは、種子は立派に結実するが、その種子の中に潜在する発芽の第一要素となる 胚の発達 が不完全な状態にあるため、発芽できない種子(次代植物の種子ができない)の事を言います。

  この発芽が困難となる 「不稔性種子」 ができる主な原因として、次のような事が知られている。

A  ブナは、「他家受粉(他のブナの花粉)」によって、発芽に必要な胚の充実した種子(発芽能力を
  有する種子)を実らせ 「子孫繁栄」 を図る特性があります。
  一方、「自家受粉(自己の花粉)」では、胚の形成が不完全な種子(発芽能力を有しない種子)が
  多くなる傾向があります。

B  ブナの種子は、冷夏の年には胚の形成活動が不活発となって、その年に拾った種子を蒔いた
  場合、発芽率が低い(発芽があまり良くない)という傾向が見られます。
  
C  開花時(5〜6月)の天候が不順であると、雌花と雄花との開花時期に差が生じ、胚の形成が不
  完全な種子が多くなる傾向があります。


A これまでに実験したブナ種子の発芽率

  他家受粉が容易な 「ブナ林」 から、採取した良質種子の発芽率は、一般に50〜60%前後となっています。このことは、ブナの森ではブナの木同士の花粉交配(受粉)によって、種子の中に潜在する胚(発芽要素)の形成が充実しているため、発芽率が高まります。

  一方、自家受粉による 「孤立木」や「散生木」 では、他のブナの木からの受粉交配(他家受粉)が難しくなり、胚(発芽要素)の形成が不完全な状態にあるため、種子を蒔いても発芽率が、かなり低い場合があります。

  種子を拾い蒔きつけた・きじひき高原のブナの木は、孤立・散生木的に生育しているため、種子の発芽が困難な場合もあります。

採取木及
び季候等
実験
年度
1u当たりの
蒔き刈り量
発芽
本数
圃 場
発芽率
発芽の
生長経過
種子の採取場所の現況と
その年の気象環境
ブナの森 1989 300粒 180本 60% 良い ブナの木が林立し一つの林分(森)を形成している場所
散生木 1989 300粒 80本 27% 稍良 ブナの木が散生的に生育している場所(きじひき高原)
孤立木 1988 300粒 20本 7% 悪い ブナの木が単木的に生育している場所(公園の植栽木)
天候不順 1990 300粒 60本 20% 稍良 開花期に天候が曇りや雨が多く全体的に天候が不順な年
冷夏現象 1993 300粒 40本 13% 悪い 開花期に天候不順や冷夏が長続きする年(稲にも影響)


B ブナの種子は諸環境に支配されやすい

  ブナの種子は、極めて環境に支配され易い傾向があります。上の表を見てもわかるように、ブナが林立する森から拾った種子は、発芽率が60%と高く(他家受粉・充実種子の関係)、発芽後の幼苗の生長も良い傾向があります。しかし、散生木や孤立木から拾った種の発芽率は7〜27%と低く(他家受粉・不稔種子の関係)、発芽後の幼苗の生長は やや良〜悪い 傾向が実験的にも明らかになっております。
このほか、種子が着生する場所(枝葉の内側と外側・日陰と日当たり・土壌水分の関係)によっても、種子の発芽や生長過程において微妙な関係があります。


  結び

  このようなことから、「百年後の森づくり」として 大澤千晶さんの蒔いた10粒のブナの種が芽を出さなかった訳を、ご理解いただけるものと思います。

しかし、きじひき高原の種拾いには、多くの人が参加しています。例えば参加(種拾い)した300人の方々が10粒づつ蒔いたとした場合、3000粒の種が町内の各家庭で蒔かれた事になります。
従って、発芽率を25%(平均)とし計算しても、将来・約750本以上の苗木がきじひき高原に植えられることになります。

この「みどりの森づくり」は、これからも続けられます。次回は50粒前後の種を拾い蒔いてみてはいかがですか。12〜15本程の苗木が得られると思います。そして、数年後にきじひき高原にお返しして、みどり豊な大野町の実現に努力いたしましょう。私も皆さんといっしょになって、長期計画に基づく「百年後の森づくり」に参加させていただきます。

  千晶さんの住んでいる大野町内の山野には、ブナのほか49科・79属・123種の木本類と、約31科・71属・88種の草本類が生育分布しています。特に、豊な清流だけに生息し国内では「絶滅危惧種」として指定されている、水生動物のニホンザリガニや水中植物のバイカモが育っています。

これらの動植物は、森の中から湧き出るきれいな清流だけに生息するもので、「大野町の自然環境」が優れていることを物語っている一つの指標になっています。


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