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◎おいしい米 道南限定「渡育240号」に期待



  ここ数年・夏場の天候不順には困りましたね。稲作もかんばしくなく、主流の 「きらら397」 も 「ほしのゆめ」 も、この頃の気象に合わないのでは、とさえ思いたくもなります。自然の力の恐さを感じます。

  こういう中、道南だけに適した新種 「渡育240号」 が北海道立道南農業試験場で開発され、今年は試験的に作付けされました。結果、予想通り冷害に強い成績がでました。来年からの作付け拡大が期待されています。

  場で発行したパンフによれば、長所は 「良食味で低タンパク・耐冷性が強い」・短所は 「いもち病抵抗性がやや弱い・粒厚がやや薄い」。出穂期・成熟期は 「きらら397」 より3日遅い晩成型。適地は道南だけ。数値が小さいほど良食味というタンパクは、「きらら397」 「ほしのゆめ」 より小さいという。

  開発を担当した・道南農業試験場 田中一生 研究部作物科長さんが、平成15年3月19日付け 北海道新聞 「いさり火」 に、渡育240号を紹介する寄稿文が載りましたのでご紹介します。


   タイトル  渡育240号は 「内地米」  田中一生 さん


  「奥地から来られたんですね」。私が3年前の4月に上川農試(上川管内比布町)から道南農試(大野町)に赴任して、はじめて地元の方とお話したときにかけられた言葉である。今でも森町より北は 「奥地」 であって、ここ大野町は 「内地」 なのである。

  函館市と旭川市を比較してみると、函館市が積雪期間で43日、真冬日で42日短く、平均気温は2.1度高い(1991年版「北海道の気象」。1961〜1990年の平均値)。同じ北海道でも全く気象条件が異なり、当然、農作物の品種や作り方も異なる。

  しかし稲作は少し事情が違う。平成4年度まで道南南部の作付けは「ほのか224」や「巴まさり」といった「内地」特有の晩生種が50%以上を占めていた。ところが平成14年度の作付けは「奥地」と同じ「きらら397」や「ほしのゆめ」といった中生種が98%。特に「きらら397」は知名度が高く、収量性もあるため比率が高い。

  私に任された仕事のひとつはこの「奥地米」の横綱「きらら397」に替わる、寒さに強くおいしい小兵「内地」向け晩生種の復活であった。

  この度、道南農試で「ほのか224」以来13年ぶりに、晩成極良食味耐冷新品種「渡育(といく)240号」が育成された。多くの関係者のご協力のたまものである。この場を借りて深謝したい。しかしそこに至る道のりは決して平坦ではなかった。

  「コメ余りで米価厳しい今、売れるか」 「道南南部に産地が限定されて生産量が限定され、安定供給が見込めず売りづらい」 と大方の評価は大変厳しかった。その度に 「まず食べてみてください。へたなコシヒカリよりずっとおいしいですから」 「冷害に強くないきらら397一辺倒ではきっと、冷害で泣く日が来ます」 と何度、関係機関をまわったかしれない。

  くしくも 「渡育240号」 は忘れもしない平成5年の冷夏の日、私が在職していた中央農試(岩見沢市)の小さな温室で、ボイラーをたきながら交配した中の一組み合わせであった。母親は米国カルフォルニア州良食味品種 「国宝ローズ」 由来の 「空系90242B」、父親は耐冷良食味系統 「上育418号」(後の「ほしのゆめ」)。F1(雑種第一代)は48粒しか付かなかった。

  この年、道南地域の作況は渡島が3、桧山2(平年100)と未曾有の大冷害で、種子も取れないありさまであった。そのため平成7年3月に、前任の沼尾吉則作物科長(現上川農試稲作科長)から中央農試に育成材料を分けてくれないかと申し出があった。

  先のF1種子は鹿児島県で二期作を終えて、1千穂選抜されていた。その中から沼尾科長はひとつかみ(約100穂)を道南農試に持ち帰った。それを5年後に私が引き継ぐことになったのは何とも因縁が深い。

  「渡育240号」は「きらら397」より「知名度」では大きく劣るが、「地産地消」の旗印の一つとして昔、「巴まさり」 があったように、オール北海道とは違う道南南部独自のブランド米を目指してはどうだろうか。

地元で大事に育てて消費して、オラが村の品種とすればよいのだ。豊富な林産、水産そして農畜産資源に恵まれた道南圏は、三方が海に囲まれた半島で、「スローフード」の発祥の地、イタリアに大変似ていると言われている。この機会に、豊かでおいしい食材に恵まれた地元の食生活を見直してみませんか。

  「渡育240号」の本格的な作付けは平成16年度以降となるが、新年度から各市町村で米作り名人たちに作ってもらい、試食販売を実施する。機会があったらぜひ食べて頂きたい。冷めても粘りがあり、北海道米のイメージが大きく変わるはずです。なぜなら 「渡育240号」は「奥地米」ではなく「内地米」なのだから。

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