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◎「白米千枚田」 作るも苦労・守るも苦労


  「棚田」

  北海道は歴史が浅く棚田と呼ばれるような水田はない。全国各地に散らばってある棚田、1993年の現地調査では約22万haと全水田面積の8%を占める。棚田は、傾斜地に作られた一枚あたりの面積が小さい水田のことだという。世界各地の山間部にも棚田のような耕作地が多く、フィリピンのコルデリェール山脈の棚田は、ユネスコの世界文化遺産に登録されている。

  江戸時代以前は、水はけが良く、水利が良いということで、洪積台地や河岸段丘の地形が適地であった。今まで残ってきたのは、藩の規模が小さく平地が少ない事情もあり、大事にされてきたからなのでしょう。

しかし米余りの時代を迎え、大型機械が使えず作業効率の悪さも後押し、さらに農業後継者不足から棚田の耕作放棄地増加が深刻化してきているという。

  「小泉首相の棚田視察」

  小泉首相が、退任を目前にして全国各地を訪問している。その一つ、「棚田視察」が先日行われた。石川県輪島市が、「瑞穂の国の原風景」の農村文化を後世に残そうと頑張っている、「白米千枚田」という棚田です。私も、9月1日に訪ねてみた。輪島市駅から車で約10分、国道を北へ走った所に在る

奥能登一高い高州山のすそ野が日本海に落ち込む急斜面に、階段上に黄金色がたなびいていた。作業効率が悪く、労働力は平地の3倍かかるという。狭い国土の落とし子にも思える。

  「白米千枚田」

  白米千枚田を一望すると、北海道人としては考えられない急傾斜地での米づくりに驚きを覚えます。平地と比べ、生産性・収益性ともに低い。米づくりが生産調整されている状況の中、今なお現存しているのはなぜだろう。

  田の畔は狭く、歩くこともままならなず、下がる道順を見つけることにもひと苦労する。肥料の運搬や見回りにも、平地の数倍労力を使う。北海道では、車で水まわりを点検するのとは対照的です。案内板に、最小の田んぼの面積は、0.2平方mとある。少しの土地もムダにしない、という精神が伝わってきます。

  2003年度の白米千枚田調査書によれば、白米地区の世帯数は19戸、うち千枚田耕作は11戸となっている。2001年に名勝白米の千枚田として3.7ha、1004枚の田が国指定文化財に指定されている。

  「多面的機能」

  能登地方は地滑りを起こしやすい珪藻土の上にあるという。白米千枚田もこの地層の上にある。この千枚田が、水を貯め、浸透させ、流れを調整して土砂流出を防止してきたという。実際に現地を歩いてみると、実にうまく水を呼び込み、そして排水させている。

  耕作地は、草刈や水路の掃除などの管理も徹底され、雨水の流れをスムーズにしている。耕作放棄地になれば、水路の管理もおろそかになる。平地の田んぼもそうだが、水を貯めダムの役目を果たしていることを忘れてはならない。

  「観光資源としての千枚田」

  白米の千枚田は、多くのボランティアの協力を得られた恵まれた環境の中で守られている。守る目的も、観光資源のための「景観保存」とはっきりさせている。ボランティアの作った米は、市内の福祉施設に寄付するという。また、農家が作った米は、「純米千枚田」という銘柄で販売しているという。

  稲刈りをしていた老夫婦に話かけてみた。「頼まれて作付けしているが、大変だ」「高齢になったし、僅かな補助金ではあわないよ」。この言葉は、将来に不安を与える。地元農家にとっても耕作することが負担になっている印象を受ける。

  千枚田を一望できる展望台、この真下の田んぼは畑に転換されている。そこでは高齢のお母さんが、野菜づくりに精を出していた。

  「農村景観を守る難しさ」

  棚田を守るために全国各地では知恵を出しているが、悩みもかかえての活動に見える。千枚田のようにボランティアを活用している所や行政の補助金で守っている所もある。あくまでも農業を守り、その上で農村景観を維持しようとするオーナー制度を取り入れている所もある。

  米の生産調整解除は無理という時代、生産性・収益性が低く多大な労力を必要とする棚田を、農家やボランティアが守り続けるには相当なエネルギーがいる。今果たしているエネルギーが、いつまて保てるのだろうか。

  「農地法が強いがための不安」

  耕作放棄地を放っておくと、雑草が幅をきかせ、そうなると害虫が増え他の作物に悪い影響をあたえます。また、草刈や水路の清掃管理をしなくなると水の流れが不安定になり、土砂流出の災害につながる恐れが出てきます。

  農林水産省は、観光地を目的として「日本の棚田百選」を1999年に選定した。それによると、市町村の数は117、地区の数が134となっている。選定された場所を守るだけでも大変なことです。

  ただ放っておくと、子孫代々の時代に災害発生が懸念される。耕作放棄地を、国が支援して森に転換してはどうだろうか。耕作できる土地を地目変更することは、今の農地法では至難なことですが、ここにメスを入れることが必要ではないだろうか。

  「顛末」
  石川県は遠い。北海道とは生活している地形も相当の違いがあります。私の母の先祖は能登地方の寒村。母からは「質素な生活をしなければ、生きていけない地域だよ」とよく聞かされた。日本海の厳しい風雪の中で生活することは、棚田を見ただけでもわかる。

  作家の司馬遼太郎さんが高知県にある千枚田を見て、「万里の長城も人類の遺産やけど、千枚田も大遺産やな」と感嘆の声をあげたという。

  棚田耕作者の高齢化が進み、後継者も不足、さらには米余りの現状を考えた時、千枚田の保存は相当なエネルギーがなければ長い継続は無理、という印象を受ける。国と地方自治体が、存続できる知恵を早く見つけだし、手を貸す以外に長い存続はない。

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