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◎ 俺 家を継ぎたいから 大野農高へ進学したい



  農家の跡継ぎは深刻な問題です。でも、農家によっては父の姿をしっかり見つめ、願い出て後継者になるケースも少なくない。これからの農業は「地域集団型」になります。強力なリーダーの出現を待ち望んでいるというのが現状です。

  大野町にある大野農業高校は、農家の後継者の育成に力をいれています。農業経営は、働けばよいという時代は終わりました。経営目標と経営収支計画を、しっかり立てることが求められています。農家を継ごうと思っている青年もこのことを、学校と家庭から真剣に学んでいます。

  大野農業高校の校内意見発表大会(平成16年6月9日)から、東出雄太さんの発表を紹介します。私たちも考えさせられることが沢山あり、見習わなければとの思いもあります。また、意見発表の中で述べている向学心旺盛な姿を忘れず、そして社会貢献を仕事と行動で示しながらの農業者に成長されることを祈ります。


  「循環型農業の確立」  大野農業高校一年  東出 雄太

  農家の長男として生まれ、よく思ったことがあります。「もう仕事したくね」「なんで毎日こんなに忙しいんだ」と、いつも嫌々仕事をしていました。

私が小学6年生の時、その日は牛の角を切る日でした。父と私は角を切る牛に麻酔をかけます。暴れる牛を父が押え、私が麻酔を打ちます。打った瞬間その牛は暴れました。そのため私は注射器の薬を半分しか打つことが出来ずに注射器を抜きました。

その後、また注射をしなければならないのですが、私はいやいや仕事をしていたせいか、「めんどくさい」と思い。父にいいました。「OK 全部打った」。しばらくして父は、暴れなくなり座り込んだ牛の角を切りに牛の頭部へと近づきました。

するとさっきまで麻酔で眠っていた牛が起き上がり、その太い角で父の腹部を突き上げたのです。腹部を押さえ痛がる父に私は何度も何度も謝りました。「俺、薬全部打ってなかった。ご免なさい、ご免なさい」。すると、父は優しく言ってくれました。「大丈夫だ。気にするな。お父さんの不注意だ」、と言ってくれたのです。

この事故で父は肋骨を2本折る大怪我をしてしまったのです。そして、次の日の朝にはコルセットを付けて痛々しく仕事をしている父がいました。それを見た瞬間、「これ以上父に負担はかけられない」と思い、この事故をきっかけに私は自ら進んで仕事を手伝うようになりました。

  仕事をしていると分からない事が沢山あり、「どうしたら美味しい米や牛肉を作ることが出来るの?」、そんな事を父から教えてもらいながら仕事をしていると、「農業って面白い、楽しい仕事だ」、と思えるようになりました。

そして、気づくと自分の心の中には「家を継ぎたい」、と思えるようになっていたのです。そして中学3年になり自分の進路を決める時、父と話をしました。「俺、家の後を継ぎたいから、大農に進学したい」と言うと、父は認めてくれました。

  その夜父は、我が家の代々引き継がれた経営方針を教えてくれました。それは「循環型農業」と言うことでした。循環型農業を確立するために我が家では水田45ha、肉牛30頭、牧草畑40ha、野菜畑6ha等、多種多様な作物・家畜を栽培飼育しているのです。

労働力としては祖父母・父・母・私と弟・妹、また忙しい時期にはアルバイトを5名雇っています。しかし、この労働力でこの広大な農地を維持していくためには、朝早くから夜遅くまで働き詰です。

  「農業は循環させることが基本」、と父は言います。「人がいて、家畜がいて、家畜から出る糞尿を土に返し、作物が育ち、人・家畜へと返る」、これが基本なのだと教えられました。しかし現代の農業は、なかなかこの循環が行われていないのが現状だそうです。

例をあげると、規模拡大による家畜飼養頭数の増加に伴う糞尿処理問題。ほとんどの農家は糞尿を処理・還元する畑が無く、野積みにしているのが現状です。しかし我が家では、90ha以上の水田や牧草地を持っているため、すべて自給肥料として自家処理が可能なわけです。また、今年11月に施行される家畜排泄物法に対応し堆肥盤を設置し、完熟堆肥として還元しています。

  その他にも私が5年生の時、北海道の畜産業をふるいあがらせた、伝染病が発生しました。それは「口蹄疫」です。この原因としてあげられているのが、牛に食べさせる稲ワラをアジアから輸入したためと言われています。これについても我が家は、45haの水田から出る稲ワラを牛の餌として循環利用しているのです。

それではなぜ、米自給率100%のわが国が稲ワラを輸入しなければならないのか?、その理由を父に問うと、「国内産より安いから」と言われました。これに関連するのがBSE問題てす。草食植物である牛に、草を食べさせず、価格の安い肉骨粉を与えた「つけ」が出たのです。これに関しても、我が家では40haの牧草地から出る牧草で自給自足しています。

  その他にも環境問題となっているのが、農産物の収量だけを目的にした化学肥料や農薬の多量投入。その結果、地下水や河川の汚染にもつながっています。そればかりではなく、作物の源でもある「土」の寿命も短くなっているのです。

  この様に循環型農業が機能しなくなった最大の理由は、目先の経済性だけを最優先させたためであると思います。ここ数年、消費者の「食」に対する安全性への関心は高く、これからの農業は新鮮で安心して食べられる農産物を生産しなければなりません。私は代々引き継がれてきた、我が家の基本である「循環型農業の確立を目指し」頑張っていきたいと思います。


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