タイトル 2000年1月1日発行
No.63 第59号
しらかば薬局

発行:しらかば通信編集委員会

2000年、今年1つ目のお話です。
一時期減ったかに思われましたが、
最近また騒がれはじめた病気に結核があります。
今回は、厚生省より出された結核緊急事態宣言について、
函館稜北病院内科佐々木先生に書いていただきました。

99年7月26日厚生省は結核緊急事態宣言を出しました。
肺結核が増加傾向にあることは専門家の間では話題になっていましたが,政府が公式に認め本格対策に乗り出す決意を示したものです。この前後から肺結核集団感染の新聞記事をよく見かけるようになりました。この影響で肺結核を心配されて病院を受診する方も増えています。最近の結核の動向をお話します。




 緊急事態宣言が出された過程

厚生省はこれまで、結核は克服されたとの認識で、国立病院や国立療養所の結核病棟の削減を続けてきました。また,予防活動の拠点である保健所の統廃合も進められています。しかし,減少一方であった結核患者の届け出数が1997年度に一転して増加したことから,結核緊急事態宣言が出されるに到ったのです。しかし,専門家の間では80年代に入ってからすでに結核患者は増えているのではないかと認識されていました。届け出された患者だけの統計では実態を反映していないというのです。
結核は日本でもまだ克服されていない。むしろ増えている。という事実をまず,きちんと受け止めるべきでしょう。厚生省も緊急事態宣言を貫くため,政策の根本転換をすべきでしょう。


結核患者増加の理由

97年の国内の結核新規登録患者数は42,715人で前年比243人増加。98年は44,016人でさらに1,310人増加と確実に増えてきています。増加の理由としてはおよそ次のようなことが考えられています。第1は国民,医療機関ともに結核は過去の病気と考えていることです。具合が悪いと真っ先に結核を心配した時代からまず癌を心配してしまう時代になったことが大きいと言うことです。2番目として結核患者が発見されても適切に対応されていないと言うことです。結核に対する基本的知識が医療機関側にも不足しています。そして3番目に健康診断の機会が十分でない集団があると言うことです。これは保健所の弱体化など保健予防政策によるところが大きいようです。
また,集団発生の原因として結核に未感染の抵抗力の弱い人が増えているいることがあげられています。病院で若い看護婦さんの集団感染が問題になるのはこのような背景があります。
ここで疑問がわいてくる方もいるでしょう。「今の若い人はみんなこどもの頃BCGを受けているはずなのにどうして結核に弱いのだろうか。」と言う疑問です。BCGは結核の発病を50%予防し,重症化を80%防ぐとされています。しかし,100%ではないのです。BCGだけでは安心できないし,撲滅もできません。
しかし,疑いさえすれば結核の診断には,手間取りません。肺CTや結核菌の遺伝子診断などを組み合わせると早い時期につけることができます。また,治療も短期集中型で効果が上がる薬の組み合わせで用いられます。結核を過剰におそれる必要はありません。
喀痰に結核菌が検出されない軽症の患者さんは仕事をしながら通院での治療が可能です。周囲に感染を広げる心配はありませんから,一緒に生活していても感染のおそれはありません。

結核に対する正しい知識を

一方,新聞記事を読んでみますと不正確な内容のためにいたずらに不安をあおっている記事も見受けられます。「大学病院で医師が結核発症し,看護婦37人感染。」「中学校教師が結核発症。生徒100人感染か。」などの報道です。
結核患者が発生した場合,病状に応じて家族や職場の同僚に保健所が検診を行うことがあります。検診ではレントゲン写真とツベルクリン反応検査(以下ツ反)が行われます。新聞ではこの検診でのツ反強陽性者の数をそのまま感染者数と報じているのです。日本では小児のツ反とBCGが義務づけられていますので,感染していなくてもツ反強陽性者がたくさんいます。実際の感染の診断はツ反だけでは無理なのです。他の検査結果も含めて感染が疑わしいとされた場合,29歳以下の方にのみ予防的な結核薬の投与が行われます。最近の新聞報道ではこのあたりが不正確にかかれるため,日本中に結核が蔓延しているような誤解を生じているのです。
正しい知識が拡がれば,結核を再度国民病にせずに押さえ込むことは可能です。長く続く咳や痰,そして微熱(高熱のこともある)は結核の疑いがあります。病院を受診し,レントゲン撮影を受けましょう。結核増加の原因として医療機関での診断の遅れがあります。医師にはっきりと結核を心配していることを伝えましょう。医師が結核を疑うことを忘れていることが多いのです。身の回りに結核患者さんが発生したら,検診を受けましょう。結核は診断がつきさえすれば怖くない病気です。的確に治療を受ければ2-3週間で他人に感染させるおそれはほとんどなくなります。
                  

[しらかば通信]