このページは日本めまい平衡医学会が作成した「メニエール病の重症度分類について」を全文掲載しております。但し、英文抄録および著者の所属は省略しております。

引用資料 Equilibrium Res Vol. 58(1) :61〜64,1999


メニエール病の重症度分類について

八木 聰明、伊藤 壽一、久保  武
高橋 正紘、高橋 光明、古屋 信彦、山下 敏夫
渡辺 行雄、工田 昌矢、室伏 利久、富山 俊一
 (厚生省特定疾患前庭機能異常調査研究分科会)

 はじめに
 厚生省特定疾患前庭機能異常調査研究分科会は、平成8年に改変され平成10年にまとめの年度を迎えた。以前は前庭機能異常調査研究班と称していたが、平成8年の改変時には聴覚・平衡機能系疾患調査研究班として統合され、その分科会として前庭機能異常と急性高度難聴の2つの調査研究分科会が組織されることになった。平成8年度〜10年度の前庭機能異常調査研究分科会では、メニエール病と遅発性内リンパ水腫を研究テーマとしており、分子生物学的、免疫組織化学的、生理学的手法等を用いつつその病態の解明に向けて研究を進めてきた。また同時に、その診断や治療法についても検討を行ってきたが、厚生省から特定疾患の重症度基準の作成を依頼され、その作業も行った。メニエール病の重症度基準に関しては現在まで指針がない。そこで、本分科会で検討し厚生省に提出したものを本誌上に掲載し、多くの耳鼻咽喉科専門医に実際に利用してもらうことにした。本重症度分類は初めて作成したものであり、今後多くの修正を加えていく必要があることも十分承知している。

 重症度基準作成に関する厚生省からの依頼について
 特定疾患調査研究は、厚生省保健医療局エイズ疾病対策課がその担当である。重症度基準に関しては特定疾患対策懇談会の意見により、次の諸点につき特に配慮して作成してもらいたいとの依頼であった。その諸点とは、
 1.重症度基準は、治療の判定や医療費公費負担対象の選定に、臨床的に使用可能な医学基準であること。(あまりにも特殊な検査を要する基準や、要介護度のみに着目した基準は不適切)
 2.本事業の基本性格は、稀少難治性疾患の治療研究事業であることを配慮すること。(活動期の症例の収集を計画した際に、本基準に基づいて選択が可能になるように、病気の活動度や研究の必要性の観点を盛り込むことは適切)
 3.基準の策定にあたっては、班として集積された症例から得られるエビデンスに基づいたものであること。(疫学的にある一定以上の検査値だと死亡率が高いので、これを用いて分類するなど、具体的資料をできるだけ活用することが望ましい)
というものである。
 これらの諸点を考慮に入れつつ、本分科会では高橋(正)および渡辺両分担研究者を中心に検討を進め、分科会長である八木が他の分科会員の意見を聞きつつまとめたものが次にあげるメニエール病の重症度分類である。以下には、厚生省に提出したものをそのまま示した。 

メニエール病の重症度分類
 前庭機能異常調査研究分科会では、メニエール病を病態の進行度、すなわち病態が可逆性であるか不可逆性で進行性になっているかを主体にし、それに症状による苦痛度(主観的評価)と日常活動の制限(社会的適応、平衡障害の評価)を加えて重症度の変化を分類することにした。なお、両側メニエール病例については、左右別々に重症度を評価し、分類するものとする。また、近い将来には、重症度をより総合的、客観的に判定するために、難聴および平衡障害のスケールを作成し、それらを加味したものに改訂する予定である。
 なお、本分類は患者が当該施設を訪れ、メニエール病の診断がついた時点で、その重症度分類が可能なようにしたものである。すなわち、メニエール病発症直後の患者にも、病悩期間の長い患者にも適応できるものであり、必ずしも長期的な観察の結果によって重症度を判定する目的に沿って作成したものではない。

重症度分類の基準となる項目と評価
病態の進行度(聴力検査を加味した評価)
 0点:正常
 1点:可逆的(低音部に限局した難聴)
 2点:不可逆的(高音部の不可逆性難聴)
 3点:高度進行(中等度以上の不可逆性難聴)
自覚的苦痛度(主観的評価:めまい、耳閉感、耳鳴、難聴)
 0点:正常
 1点:自覚症状が時に苦痛
 2点:自覚症状がしばしば苦痛
 3点:自覚症状が常に苦痛
日常活動の制限(社会的適応、平衡障害)
 0点:正常
 1点:日常活動が時に制限される
     (可逆性の平衡障害)
 2点:日常活動がしばしば制限される
     (不可逆性の軽度平衡障害)
 3点:日常活動が常に制限される
     (不可逆性の高度平衡障害)

総合的重症度
stage 1:準正常

 無症状で正常と区別できない
 病態:0点、自覚的苦痛度:0点、日常活動の制限:0点
stage 2:可逆期
 病態は可逆的である
 病態:1点、自覚的苦痛度:0〜1点、日常活動の制限を問わない
stage 3:不可逆期
 病態は不可逆的であるが進行していない
 病態:2点、自覚的苦痛度:1〜2点、日常活動の制限0〜1点
stage 4:進行期
 不可逆病変は進行し、自覚症状の苦痛や日常活動の制限がある
 病態:3点、自覚的苦痛度:2〜3点、日常活動の制限:2〜3点
stage 5:後遺症期
 不可逆病変は高度に進行し、後遺症がある
 病態:3点、自覚的苦痛度:3点、日常活動の制限を問わない

 重症度分類の治療への応用
stage 1:生活指導のみで与薬を必要としない時期
stage 2:生活指導と与薬を必要とする、完治可能な最も重要な時期
stage 3:初期治療が不成功に終わり、不可逆病変を伴う対症療法の時期
stage 4:進行し、保存的治療に抵抗し外科的治療が考慮される時期
stage 5:高度に進行し、病態は活動性ではないが後遺症が明らかな時期

 考 察
 メニエール病の診断基準については、厚生省特定疾患メニエール病調査研究班の報告(1)や、日本平衡神経科学会の基準案(2)がある。また、メニエール病に対する診断および治療効果の判定基準に関しては、Committee on Hearing and Equilibrium of the American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Surgery によって1972年(3)と1985年(4)に提唱されたもの、およびそのコンピュータソフト対応版(5)が国際的には代表的なものである。一方、本邦では、日本平衡神経科学会のめまいに対する治療効果判定基準化委員会の答申として、めまいに対する治療効果判定の基準が報告されている(6)。
 これらの診断基準や治療効果判定基準については、多少の問題点が指摘されているものの(7,8)、多くの神経耳科医によって検証され、その目的を達しているものと思われる。しかし一方で、メニエール病患者が来院してその診断がついた時点で本疾患が当該患者にとってどの程度重大であるか、つまりその重症度について検討したものはない。むろん、前述のいくつかの基準の一部を利用することによって、ある程度重症度を推測することは可能ではある。
 本分類は、先にも述べたように患者が医療施設を訪れ、メニエール病の診断がついた時点で、その重症度分類が可能なようにしたものである。従って、必ずしも長期的な観察の結果によって重症度を判定する目的に沿って作成したものではないことを考慮にいれて使用してもらいたい。この分類では、めまいや聴力について大まかな評価しかしていない。この大まかさが長所にもなるし、当然客観性が少なくなる分短所にもなる。この分類をより良いものにするためには、実際に多くのメニエール病患者に使用してみた結果のフィードバックが不可欠である。

おわりに
 厚生省特定疾患前庭機能異常調査研究分科会(平成8年度〜10年度)では、その病態の進行度を主体にし、それに症状による苦痛度(主観的評価)と日常活動の制限(社会的適応、平衡障害の評価)を加えてメニエール病の重症度分類を作成した。今後、多くの臨床例でこの分類を用いて、より適切なメニエール病の重症度分類に仕上げたい。

文  献
1) 渡辺 いさむ:厚生省研究班メニエール病診断基準について. 耳鼻臨床 69:301-303,1976
2) 小松崎篤(委員長):めまい診断基準化のための資料. 1987年めまいの診断基準化委員会答申書. Equilibrium Res 47: 247-248,1988
3) Committee on Hearing and Equilibrium (Alford BR, Chairman). Report of subcommittee on equilibrium and its measurement. Meniere's Disease: Criteria for diagnosis and evaluation of therapy for reporting.  Trans Am Acad Ophthalmol Otolaryngol 76: 1462-1464,1972
4) Peason BW, Brackmann DE: Committee on Hearing and Equilibrium guidelines for reporting treatment results in Meniere's disease. Otolaryngol Head Neck Surg 93: 579-581,1985
5) Committee on Hearing and Equilibrium : Committee on Hearing and Equilibrium guidelines for reporting treatment results in Meniere's Disease. Otolaryngol Head Neck Surg 113: 181-185, 1985
6)水越鉄理、渡辺行雄、將積日出夫、他:めまいに対する治療効果判定の基準案(メニエール病を中心に)−1993年めまいに対する治療効果判定基準化委員会答申−. Equilibrium Res Suppl 10: 117-122,1994
7)水越鉄理、渡辺行雄、大橋直樹、他:メニエール病の診断基準の問題点. Equilibrium Res Suppl 5: 34-37,1989
8)石田 孝、喜多村健、神永千織、他:メニエール病における保存的治療効果判定−AAO-HSN案と日本平衡神経科学会案の比較−. Equilibrium Res 54: 458-463,1995


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