( Syphilis of the labyrinth )

1.疾患概念
 内耳梅毒は、梅毒に由来する血行性内耳炎あるいは第8神経炎で、古くより知られている疾患であるが、蝸牛と前庭の各症状がいろいろに組み合わされて発病するため、病態を把握することは非常に困難で、しばしば診断に迷わされる。従って、今日でも難聴やめまいの鑑別診断に際して重要な疾患であることにかわりはない。

2.病歴からの診断
内耳梅毒は先天性と後天性に分類される。
1)先天性梅毒
@ 聴覚症状
A.胎生期に発症すると先天性難聴(全聾)となる。
B.生後に発症する場合、10歳以前では、難聴は突発的、両側性かつ高度。成人発症では、難聴は軽度。
 聴力は必ずしも左右対称的ではなく、高音漸傾型が多く、混合性難聴のことが多い。成人になるに従い進行する場合もある。女子では、月経、妊娠に関連し難聴の発現することがある。
 耳鳴の程度は強く、本症患者にはほぼ必発である。
A 前庭症状
さまざまで、時にメニエール病と類似することがある。
Hennebert 徴候、Tullio 現象がみられることもある。
B 家族歴
 母親が梅毒血清反応を示す。視力低下などの眼疾患、難聴者、流産、死産者などをみることがある。
C ハッチンソン3主徴
 難聴、角膜実質炎、ハッチンソン歯がみられることもある。
@、A、Bの条件を満たせば内耳梅毒を疑う。
Cはきわめてまれであるが認められると内耳梅毒を強く疑う。
2)後天梅毒
@ 聴覚症状
 両側性であり、進行性難聴型、突発性難聴型、聴力変動型(メニエール型)の3つに分類される。耳鳴はほぼ必発である。
A 前庭症状
 めまい、眼振、迷路性失調がさまざまにみられる。
B その他の脳神経症状
 慢性髄膜炎による頭痛を訴えることがある(meningo-neuro-labyrinthitis)。
@、Aの条件を満たせば内耳梅毒を疑う。

3.検査からの診断
1)梅毒血清反応
@ STS(serologic test for syphilis)
A.ガラス板法
B.RPR 法
C.凝集法
D.緒方法
A トレポネーマ抗原法
A.TPHA(treponema pallidum hemagglutination test)
B.FTA-abs(fluorescent treponemal antibody absorption test)
感染初期を除き、@、Aとも陽性である。
@のみ陽性:生物学的偽陽性
Aのみ陽性:古い梅毒または治療済みの梅毒
2)聴力検査
 両側性の内耳性難聴(必ずしも左右対称ではない)で、語音明瞭度の低下をみることが多い。
3)平衡機能検査
@ 温度性眼振反応の低下(多くは両側性)
A 立ち直り反射の障害
B 回転検査で VOR gain の低下
4)蝸電図
CM の振幅低下、ーSP の増大、AP の振幅低下
1)、2)、3)、4)の条件を満たせば内耳梅毒を疑う。

4.鑑別診断
1)突発性難聴
 時に急性感音性難聴として発症することがあるので、突発性難聴との鑑別が必要となる。両側性に発症し、血清梅毒反応が陽性であることにより鑑別する。
2)メニエール病
 鑑別が非常に困難である。両側性に発症すること、血清梅毒反応が陽性であることにより鑑別する。
3)小脳橋角部腫瘍
 X線、CT が鑑別に役立つ。
4)椎骨脳底動脈循環不全
 血管造影が鑑別に役立つ。

5.病期の判定
1)先天性梅毒
 treponema pallidum の胎内感染により10〜30%が発症する。
2)後天梅毒
 第2期(感染後3カ月〜3年)、第3期(感染後3年以後)に発症する。

6.予後判定基準
 発症後の経過が長くなるに従い、両側高度の難聴および両側迷路機能の低下を示す。治療後も難聴を予防できないこともある。高度障害型の予後は不良。

7.疾患についての説明
 抗生物質の進歩により、近年の顕性梅毒患者は減少しているが、内耳梅毒と診断される症例は現在なおめまいや難聴を訴えて受診する患者の5%前後と多い。また、本疾患は種々の臨床像をとり、診断が困難であるため他の疾患と誤診され適切な治療がなされないまま症状の進行する症例も間々見受けられるという。
 一般に、診断は血清梅毒反応によるが、この反応が陽性であっても本症の確定診断には慎重であるべきで、突発性難聴やメニエール病などとの鑑別が困難である。
 梅毒の治療は今日ではペニシリンを中心とする抗生物質による治療が主体となっているが、内耳梅毒に関しては問題が残され、治療効果のためには長期間の投与が必要とされている。ステロイド剤は主に先天梅毒に用いられている。ペニシリンとステロイドの併用により約50%の臨床効果を認め、純音聴力より語音弁別能がよく改善される。