( Vestibular dysfunction due to ototoxic drugs )

1.疾患概念
 全身的または、局所的な薬剤の投与が直接の原因となって、めまいを起こした状態である。病態は、末梢前庭器における種々の程度の感覚細胞レベルの障害で、平衡機能検査でこれを裏付ける所見が見出される。また、蝸牛も同時に侵され、聴力検査で異常が現れることもある。病変は、症状が認められる頃には既に非可逆性となっていることが多く、治療困難であるので、予防が重要とされる。

2.病歴からの診断
1)薬剤投与中に発生しためまい
 投与後いつから発生したかということについては、個人差あるいは投与経路による差があるため、規定しない。しかし、投与との関係は明らかにしておく必要がある。薬物中毒は原則として投与中止により進行が停止するので(DHSMのみが例外)投与中に生じたもののみとするのが適当と思われる。投与量については、個人差(内耳の受傷性の差)が甚だしいため、とくに規定しない。
2)浮遊感を主体とするめまい
 めまいの性状については従来より、回転性めまいよりも、フラフラ感、浮遊感の頻度が高いことが知られているため、この項目は必須である。特に両側同時・同程度に障害が進行するので自覚されがたい点は充分に留意すべきである。
3)Jumbling 現象の存在
 障害が進行し、両側の前庭機能の高度低下や廃絶状態になると、体(頭)動時の動揺視が出現する。歩行時や急に頭部を動かした時、一過性に動揺視がみられる。
4)耳鳴の存在
 一側性でもよいが、特に両側性の耳鳴があると薬物による内耳障害の可能性がより高くなる。

3.検査からの診断
1)平衡機能検査では立ち直り反射の障害(特にマン検査、単脚起立検査での異常)が重要である。特に立ち直り反射の障害は、暗所、運動時に増強し、閉眼で顕著となる。上記の Jumbling 現象や、頭部運動時の視力低下も重要であるので、それを証明する検査法の工夫が重要と思われる。ストマイ投与患者に対する我々の統計では、単脚起立検査の異常発現率61.9%であった。カロリック反応は進行すると両側高度低下または廃絶となる。OKN、ETTでは時に軽い異常をみることがある。
2)オージオグラムでは、薬物中毒を推測させる両側同程度の有毛細胞障害型の難聴が存在する。特に初期では、高音障害型を示す。病期が進むと、中低音にも障害がおよぶ。
3)中枢神経系の異常を認めない。

4.鑑別診断
 問診を充分に行って薬剤使用の有無を確かめることが、すべての鑑別診断に共通する。似たような症状を呈し、鑑別すべき疾患としては、脳循環不全性めまいと自律神経失調症があげられる。前者は、血圧、シェロングテストの異常、血中コレステロール値、中枢性めまい所見、中枢神経症状の有無により鑑別する。後者については、自律神経機能検査の異常と末梢前庭障害の有無に注目する。
 また、前述した体(頭)動時の動揺視(Jumbling 現象)の有無に注目する。

5.病期の判定
1)初期
 浮遊感のみのめまい。検査上は立ち直り異常のみで、歩行障害はみられない。カロリック反応は両側とも存在する。
2)後期
 以上に加えて、歩行障害、体動時の動揺視(Jumbling 現象)、両側カロリック反応の低下〜廃絶、高度感音難聴などがみられる。
 中期は以上の中間とする。

6.予後判定基準
 予後良好:前庭機能検査上は、立ち直り異常のみで、カロリック反応は正常または一側障害のみにとどまる。
 予後不良:両側カロリック反応の高度低下〜廃絶、著しい動揺視、または著明な歩行障害のいずれかが認められるもの。治療に反応して回復するものもある。

7.疾患についての説明
 薬剤投与が直接の原因となって発生しためまいで、末梢前庭機能障害型を示す。薬剤としては、アミノ配糖体系薬剤が代表的なものである。病態は、種々の程度の前庭感覚細胞の障害に代表されるが、前庭器の受傷性、特に薬剤投与量との関係については個人差が著しい。症状としては、回転性めまいよりも浮遊感を訴える症例が多い。病期が進むと歩行障害や、動揺視が出現する。難聴、耳鳴などの蝸牛症状も伴うこともある。検査上は立ち直り反射の障害が重要である。カロリック反応は、初期には存在するが、進行すると低下、又は廃絶となる。オージオグラムでは、両側同程度の蝸牛障害型の聴力障害が認められる。病変は、症状発現時には非可逆性であることが多く、治療にも反応しないので、内耳障害を起こす薬剤の使用にあたっては、細心の注意が必要である。